幻の女
- 作者: ウイリアム・アイリッシュ,稲葉明雄
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 1976/04/30
- メディア: 文庫
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ずいぶん評価の高いミステリー小説らしく江戸川乱歩も褒めているので読む。
ひどくイライラさせる小説である。手に汗握るとか気をもませるといったレベルではない。登場人物の行動一つ一つが理解不可能であるため、感情移入どころか苛立ちすらおぼえてしまう。読者(私)はずっと登場人物の非合理的な行動に付き合わされるハメになり、さんざん引っ張り回されたあとに意外なラストを迎えたとしてももうどうでもよくなってしまった。
よく推理小説なんかで身勝手な行動をしている登場人物に対して「やれやれ」と思わされること、例えば閉ざされた山荘なんかで一人目の犠牲者がでたあとに「俺はお前らなんかと一緒に行動しないからな!」と一人息巻いて勝手に単独行動した挙げ句に次の日にまんまと死体となっている状況がしばしばあるが、それよりもひどい。
特に主人公の愛人のキャロル・リッチマン。彼女がしでかした行動は軽率すぎるし、より悪い状況を作りだしている。バーテンダーが気の毒でしょうがなかった。他になにか方法があるだろうと呟かずにはいられない。
それと、幻の女っていうのがただのキチガイだったっていうのが腑に落ちない。というかこの事件自体、偶然が重なりすぎ。後味の悪さだけが残り全然スッキリしない。
あの時代のアメリカの司法制度は知らないが、死刑執行当日に新たな証拠がでただけで死刑執行がストップされるというのはすごいなあ。
旅と歴史
イラストクワイ河捕虜収容所―地獄を見たイギリス兵の記録 (現代教養文庫 1109)
- 作者: レオ・ローリングズ,永瀬隆
- 出版社/メーカー: 社会思想社
- 発売日: 1984/06
- メディア: 文庫
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この本は全体として見開きの右ページで収容所体験の文章があり、左ページが著者の描いたイラストという体裁になっている。著者の画風がつげ義春に似ていて悲壮感がただよっている。
不思議なことだが、夜と霧を読んだ後ではタイ・ビルマにおけるイギリス人捕虜のこの体験記はまだマシなような気がした。これはおそらく相対的な比較でそう感じただけであり、このイギリス人だってそうとう悲惨である。
バタバタと仲間が死んでいく中でこの著者が感じたことは「ここでは宗教はなんの役にもたたない」という衝撃的なものだった。聖書はちぎられ、排泄の時に尻を拭くのに用いられたという。そして、ここでは信仰とは違った意味での精神的なものが重要であると言っていたのが意外であった。
極限状態で人間が何を求めて何によって救われるか(もしくは救われないか)が浮き彫りになる2冊であった。
- 作者: ニックミドルトン,Nick Middleton,桑原透
- 出版社/メーカー: 阪急コミュニケーションズ
- 発売日: 2004/03
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- 作者: 角田光代
- 出版社/メーカー: 求龍堂
- 発売日: 2001/04/01
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- 作者: 喜国雅彦
- 出版社/メーカー: 双葉社
- 発売日: 2001/12
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また、古本蒐集マニアというものはある程度の金がないとダメだっていうことがよ〜くわかった。
しかし読んでいてだんだん気になったのは著者の喜国氏が買った本を全然読まないということ。つまり単に本そのものを集めるのが好きなのであって読書は二の次というスタンスである。それはそれで文句は言えないが、こういったマニアが増えれば増えるほど稀覯本などは大金を出さないと読めないことになり、情報の独占がますますはびこっていくのではないかという危惧である。
彼らの対極に位置するのは、本なんて読めれば初版だろうが絶版だろうが関係ない、要は本は読むためにある、と思う読書家たちであろう。読書家たちが読みたい本が読むつもりもない古書蒐集マニアによって買い叩かれ、本棚の隅で誰に開かれることもなくじっとしている光景を想像すると妙な不快感がわきでてくる。これではますます本が売れなくなって書籍が電子データベース化されるのは必然である、というのは言い過ぎか。
- 作者: ジョントレハン,高野利也
- 出版社/メーカー: 晶文社
- 発売日: 1991/05
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1929年、ドイツ人の男女二人が文明生活を離れ、ガラパゴス諸島のある島に理想を求めて上陸するが、そのことが本国で有名になるにつれて島には侵入者たちが訪れるようになる…。
冒険譚でもありサスペンスでもあるこの実話は住民同士の争い、行方不明者、死体など最後まで謎が残るエピソードであふれており、実に興味深い。
ペダントリー
黒死館殺人事件―小栗虫太郎傑作選1 (現代教養文庫 886 小栗虫太郎傑作選 1)
- 作者: 小栗虫太郎
- 出版社/メーカー: 社会思想社
- 発売日: 1977/04
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まさに衒学的の一言。そして百科事典をひっくり返したような夥しい引用に次ぐ引用!
ゴシックな世界観は私好みであるが、あらゆる単語にルビがふられているので読むのに一苦労である。しかも、読みながら「このルビ間違ってるんじゃないかなあ」と不安な気持ちでいたら案の定間違っていました(笑)。うろ覚えで引用しまくる小栗虫太郎恐るべし。
私が読んだのは社会思想社の現代教養文庫版なので他の出版社のものはわからないが、付録の書評や解説が妙に面白かった。突っ込みたかった部分を読者の代わりにちゃんと突っ込んでいてくれてスッキリするし、凡庸な書評と違って作品中の良くない点をガツンと指摘している。
三大ミステリで一番のめり込めたのは『ドグラマグラ』だった。とにかく何も考えず、チャカポコしたリズムに身を任せるだけで他の小説では味わえないようなトリップ感が堪能できる。メタミステリという見方でも『虚無への供物』よりもざっくりとした、それこそガラリと世界が変わってゆく時の酩酊、「めまい感」とでも言うような感覚にただただ酔いしれるのみである。それに比べると『虚無への供物』はこぢんまりまとまっている印象が拭えない。良く言えば真面目な感じ。勝手に順位をつけるなら1位ドグラマグラ、2位黒死館殺人事件、3位虚無への供物で決定。『虚無への供物』が3位なのは『匣の中の失楽』のほうが良かっただけに相対的に本家?のほうが評価が低くなってしまった結果です。
最近読んだ本(3月中旬頃〜下旬)
- 作者: 竹本健治
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1993/08
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デビュー作『匣の中の失楽』のような重厚な印象はないが、世界観はこちらのほうがとっつきやすい。とは言っても、正直なところ芸者たちの話はつまらなかった。
幾重にも世界がおり重なっていく過程を楽しむ小説なのはわかる。しかし、なぜ芸者?という疑問がいつまでも頭から離れないまま読み終わった。その辺が実に惜しい。舞台が違えばもっと引き込まれた気がするのだが…。
作中の竹本健治が知らない間に原稿を書き加えられているという設定も少し、いやかなり強引な話ではないのか。読者としては「途中で気づいてるなら書き換えられないようにしろよ!」と突っ込みたくなる思いである。
ちょこちょこ出てくる衒学的な挿話は面白いが言いたいことがひとつある。「連載第十二回」の中で完全に同一の人間を複製した場合の思考実験をしているが、完全に意識も同じというのはあり得ないのではないだろうか。というのは、哲学でいう独我論の立場をとるならば、まったく同じ?AとBという人間の意識に〈私〉という概念が発生した時、例えばAの〈私〉の中にBの〈私〉がAの世界の一部として内包されるのである。つまりどんなに客観的に同じ二人の人間がいようとも、その人間に主観がある限り、客観的な区別はつかなくともそれぞれが「〈私〉はあなたではない」ということが明白なのであるからその二人にしてみれば「同じ」ではないのである。
なんだか物理学の観測者問題みたいになってきたなあ。
- 作者: 村上春樹
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1996/05
- メディア: 単行本
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村上春樹が極端な中華料理アレルギーだというのは意外だった。そう言われてみれば彼の小説には中華料理がほとんど出てこないような…。それにしても一度もラーメンを食べたことがないというのは驚きである。
村上春樹のいいところ、というか彼のエッセイなんかを読んでいていいなあと思うのは、随所に教訓的なメッセージがちりばめられているのに嫌みがないところである。洗練されたシンプルな文体のせいだけではない。彼の教訓は決して説教的でもないし倫理的でもないのだ。彼自身、人にものを語るときの押しつけがましい態度といったものが許せないのではないだろうか。彼の中では世間的な善悪などより、あくまでも好みの問題、つまり趣味の問題のほうが人生にとって重要であるというような印象を受ける。
そう考えると交通標語が嫌いなのもうなずけるわけである。
あと、村上春樹が大麻に寛容な姿勢を打ち出しているのは痛快である。彼にしてみれば大麻問題なんてものは良い悪いではなく、騒ぐほどのものではないということですね。
- 作者: 水上勉,瀬戸内寂聴
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1997/07/25
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いわゆる「文壇」が華やかなりし頃の思い出話は聞いていて心地よいものである。やはりその頃は文学的に?いい時代なのであろうか。
全体を通じて二人の対談でセックスの話ばかり出てくるのにはある意味感心した。水上勉が養老孟司に「わたしは七十八になっても、いまだに女性を見ると女性を求める気持ちがあるんです…」と女性を見てムラムラする気持ちを語るあたりはスゴい。
また、瀬戸内寂聴がNHKで源氏物語のことを強姦の話だと言おうとしたら、「強姦」という言葉は使わないでくれと言われた話も彼女らしいと思った。ちなみに「レイプ」という言葉なら良いそうである。
- 作者: 丸谷才一
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 1999/09/30
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著者の勉強ぶりをみると、こういう人は敵にしたくないな〜と思う。どうやら自然主義文学が嫌いな人のようで、私なんかは読んでいて苦笑させられる。
論旨が明快で説得力がある。
- 作者: 見沢知廉
- 出版社/メーカー: 電子本ピコ第三書館販売
- 発売日: 1995/11/25
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天皇と右翼と刑務所がわかるという触れ込みの本だが、読んで納得。とてもわかりやすい文章なので読みやすかった。
単なる政治的な話にとどまらずエンターテイメント性もあるので、テーマのわりに抵抗なく読み進めることができる。
しかしこの本一冊で右翼がわかった気になってはいけない。
- 作者: 島田雅彦
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2000/02/18
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こちらは左翼の本…とまではいかないか。
島田雅彦の本は今回読むのが初めて。どうもこの人の話は鼻につくところがあって、ただの自慢話にとれるような部分も多少ある。
若い頃に書いたエッセイなのでしかたないのだろうか。良い意味で刺激的な内容であるだけに細かいところが残念な本である。
- 作者: ドナルドキーン,塩谷紘
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1986/06
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てっきりドナルド・キーンが書いた文章そのままかと思いきや翻訳されているんですね…。
内容としてはキリッとした感じで古き良き日本を意識させるものである。
タイトル通り、日本人が読むと少し耳に痛い。なかでも著者やその他外国人の、餅が苦手だという話は思わず同情する。
- 作者: 横尾忠則
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 1992/06
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淀川長治との対談の中で、横尾忠則の原体験が江戸川乱歩であり、それ以降何を読んでもピンとこないというのが面白い。
面白く読んでいたのもつかの間、草間彌生との対談ではかなりイライラさせられた。私は美術家としての草間彌生はほとんど知らないが、これはひどいと思った。
横尾忠則との対話がまったくかみ合っていない。草間自身もそれに気づいて戸惑いを見せているが、横尾さんの方がもっと気の毒である。少なくとも(現代美術界や美術史を知らない)第三者が読むと彼女が言っていることはなんだかメチャクチャに思えてしょうがない。
乱読
・推理小説ばかり読む
本ばかり読んでいると体に悪そうだが止まらない。一種の強迫観念のようなものか。
- 作者: 中井英夫
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1974/03
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- 作者: 竹本健治
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1991/10/30
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- 作者: 歌野晶午
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2007/05/10
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『葉桜の季節に君を想うということ』はタイトルに惹かれて読んだが期待はずれ。ラストに関して言えば、やられたというより興ざめに近い感覚だった。
マヂック・オペラ --二・二六殺人事件 (ハヤカワ・ミステリワールド)
- 作者: 山田正紀
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2005/09/22
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『マヂック・オペラ』は前作である『ミステリ・オペラ』に引き続きなかなか良い。どうやら私は推理小説を読む際にトリックやラストの意外性といった点より、ストーリーや文体そのものに重点を置いて評価してるような気がする。
- 作者: 森博嗣
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2000/03/15
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ついでに『封印再度』も読む。この作者の小説はいつもながらサクサクと読める。良くも悪くも引っかかるものがない。シンプルでつるつるした肌触りである。しかしながらこの作品に関して言わせてもらうと、シリーズの最初の頃に比べてヒロインが嫌な女になってきていることが残念。というのも性格的にあっさりしていて凜としたような女性像だったはずが、だんだんと陰湿でジメジメした女の情念の欠片のようなものが突出してきた感が否めない。登場人物全員に言えることだが私はこの作者には人間のドロドロした内面の描写には全く期待していない。逆に現実ばなれした人間描写、良い意味での世間ズレした透明な感じが好きだったのだが、これはあくまでも私の好みの問題か……。
- 作者: 夏目漱石
- 出版社/メーカー: 新潮社
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『ハサミ男』について
評判が良さそうなので読んでみた。
まず気になったのが文章がひっかかる、というか私好みではないということ。慣れればそうでもないのだろうが始めはスラスラと読めなかった。
この小説はラストの意外性に重点を置いているが、それまでに続く過程にも伏線が張られているので読み終わった後に前のページをパラパラとめくる楽しみがある。
私としてはラストよりも過程で描かれているハサミ男と警察の心理戦が面白かった。それだけにラストは意外ではあったがその驚きも軽い印象であった。
- 作者: 殊能将之
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2002/08/09
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