『「神」という謎』

「神」という謎―宗教哲学入門 (SEKAISHISO SEMINAR)

「神」という謎―宗教哲学入門 (SEKAISHISO SEMINAR)

 宗教哲学の書籍は数多くあるが、なぜこのような入門書がほとんどないのか疑問である。
宗教哲学で神の存在論と言うと西洋的なアプローチ、つまりユダヤキリスト教を対象にしたものが多く、また神学的であることが多い。本書でもそういった傾向は見られるが、他の類書に見られるようなごまかしともとれる(有神論or無神論への)誘導がほぼない。
 なにより好感が持てるのは、あくまで素朴な疑問を出発点としているので、(神学的には当たり前な?)前提を無条件に受け入れずに著者がツッコんでくれるところである。宗教学や神学の本ではこうはいくまい。このへんが宗教哲学たるゆえんである。つまり、哲学的疑問というのは問うことでバチが当たりそうな疑問のことなのである。
 例えば自由意志をめぐる箇所で、聖書のヨブ記に著者がツッコミを入れているところなど、思わず「そうだよな」と納得してしまう。おそらくこの著者はサービス精神が旺盛というか、読者に対してかなり親切であるとみた。
 入門書なのでそれぞれのトピックがコンパクトに収まっているが、物足りないと思わせつつも知的好奇心を駆り立てる終わらせかたをしていて、さらに他の文献も読みたくなる。
 私としてはこういう(神をも恐れぬ)本が増えてくれることを願うばかりである。宗教哲学の名を冠していながら、全く哲学的ではない入門書が多すぎる。