無所有

先週酔ってバッグをどこかに置き忘れてしまった。中には財布、ケータイ、免許証などあらゆる大事なものが入っていたので次の日は最悪だった。特に携帯電話には僕の個人情報がギッシリつまっていたので、それがなくなったのは財布以上に痛かった。
なくしたことに気付いた朝は落ち込んでる暇がないほど忙しく、壮絶である。二日酔いでボンヤリとした頭のまま交番へ行き遺失物の届けを出し、銀行でキャッシュカードを停止し、ケータイもストップさせ…。銀行の窓口では何度か吐きそうになった。
その日にできることをなんとかやり終えた時はもう、ひとりで山にでも籠もりたくなり明日のことを考えるのも苦痛であった。

夜、僕には「ああ、もう俺には何もないんだ」という妙なすっきり感みたいなものがあって、社会に裸で放り出されたような気持ちになった。身分を証明するものもないし、金もないし、連絡手段もない。ケータイのメモリに入っていた電話帳もないので、一生連絡をとれない人も何人かいることだろう。
実はケータイがなくて困るのは僕自身じゃなくて周りの人間なのだ。というのも、これを機に僕としては一ヶ月ぐらい世間(ケータイによる情報網)から雲隠れしてみたいと思っていたのだが、当然周りは許さないわけで実現できなかった。ある仕事先の一つに数日後に行ったら僕が行方不明という扱いになっていてこちらが驚いてしまったものである。