ピアノと映画
まずは軽い感想から。
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ある映画レビューサイトでは高得点(10点もずいぶん多い)が幅を利かせていたが僕としては点数をつけるならまず10点は無理。といっても低くない得点ではある。
時代背景を理解すると良い映画かもしれない。顔が白塗りのパフォーマンス(パントマイム)集団は僕にとってはどうでもよく、深読みさせる気にもならなかった。ただ、僕には興味深いシーンがあり、劇中のカメラマンが撮影するときのシャッタースピードや絞りが気になった。60年代はピントも露出もマニュアルだろうし。カメラが趣味の人間には主人公が撮影する際の手ブレは観ていて非常に気になるのではないだろうか?手持ちで三脚なし、空も晴天とは言い難いし…。
映画といえばそれまでで、勢いを表現したリアリズムだともいえるけどやっぱり気になった。でもカッコよかったし面白かったのでまあ良し。
で、今回の目玉『ピアニスト』
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ピアノと映画は相性がよい。特に伝統や古典、静謐さを象徴するものとしてピアノは格好の素材である。であるからして、新と旧、そこから飛躍しての狂気と理性なんかのコントラストは表現しやすいものなのだ。テーマでいえば単純に「ピアノ的なもの」(分かりやすく言えば古い価値観だとか)をぶっ壊す作業ですね。
しかし、ありふれたテーマだけに観客の目は肥えてるし、ハードルも高いのである。
有名なピアノものの作品で『ピアノレッスン』がある。
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ではこの二つはなにが違うのか?
僕なりに手っ取り早く強引に解釈すると、
①『ピアノレッスン』の女(主人公)は夫という権威と価値観に縛られていたが、『ピアニスト』の女(主人公)は両親(とくに母親)という権威と価値観に縛られていた。
②『ピアノレッスン』の男は上の立場でほんとに無骨というか強引にせまっていくが、『ピアニスト』では男は若く年下で、幾分スマートにせまっていった。といってもやはり強引。
③『ピアノレッスン』では男がいないシーンで女が男を愛しているところがちゃんと描き出されているのに対し、『ピアニスト』ではほとんどない。男が目の前にくるまで(映画的に)押し隠している。
④『ピアノレッスン』はハッピーエンドかと思いきや不運な幕切れで死んでしまう。『ピアニスト』は最後まで男女はすれ違い、女はどうしようもなくなりナイフで自分をグサッと刺すが、それも中途半端で死ぬどころか少し血がにじむ程度。
⑤マイケル・ナイマンに対してシューベルト。
少し説明的になってしまったが、この二つの作品の最大の違いはラストに表れている。
『ピアノレッスン』の女は男にすべてを捧げ、愛し合う中で突然の死に襲われたが、その死の余韻にも美しさが漂う。
『ピアニスト』の女はよりいっそう悲劇的である。女は男にすべてを捧げようとしたのだが男はこれを受け入れられない。そして、その悲しみの刃は自らに及ぶが「殺す」のではなく「傷つける」のである。物語は決して終わることなく、むしろ深い傷を残し問題を拡げていくようでもあった。
と、ここまでは『ピアニスト』を肯定的に論じたが以下はちょっと厳しい感想。
主人公がSM趣味なのは面白いが、それも結局のところ真性マゾではなくマゾプレイが好きなだけ、いや単に憧れてただけ。あとR指定映画のようだけど全然エロくない。相手役の男が頑張って腰振ってるときに女がマグロ状態なのははっきりいって萎える。そりゃ男もあきれて帰りますよ。扇情的エロティシズムの点でいえば『ピアノレッスン』のほうが上。この映画を一言で説明すると「SM妄想のある女が恋人に実際殴られてビックリしちゃうどころかヤケになる、迷惑な話」という具合だろうか。
いろいろ書いたけど僕は『ピアニスト』のような映画は生々しくて好きです。