無知と偏見、あるいは先入観

とんねるずの番組に「食わず嫌い王」というコーナーがあるが、あれは「食わず嫌い」ではなく以前食べて不味かったものをただ当てるだけのコーナーである。視聴者の大半はそのことを承知で観ているんだろうが、中には間違った意味でおぼえてしまう人もいそうで僕としては不愉快だ。
と、まあとんねるずはどうでもいいとして、「食わず嫌い」と同じような意味で世の中には「聴かず嫌い」とか「読まず嫌い」、それに「観ず嫌い」というのもあると思う。食わず嫌いが食べ物を指すのに対し、あとの三つはそれぞれ音楽、文学、映画を指す。
僕は自分の中にあるこの三つの「〜ず嫌い」によってずいぶん損をしてきたが未だにこういった傾向はなおらない。
「読まず嫌い」、つまり文学の話で言えば村上春樹の小説がそうだった。
村上春樹の小説を読んだことがなかった頃はとにかく、あの『ノルウェイの森』のイメージがイヤでイヤでしょうがなかった。何万部売れたとか、80年代を代表する恋愛小説だとか、マスコミによって垂れ流されるイメージが僕に刷り込まれていたのでそれだけに絶対読むまいと思っていた。
ところが、今思い返してもなぜだかわからないが『ノルウェイの森』を読むきっかけがあり、ついに読んでしまったのである。そのときはまあまあ面白いという程度で特に気にとめてもいなかった。その後、当時付き合っていた彼女が強くすすめてきたのが『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』で、この辺りから彼の作品の世界観が好きになっていった。
ノルウェイの森 (上) (講談社文庫)ノルウェイの森 (下) (講談社文庫)世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド〈上〉 (新潮文庫)世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド〈下〉 (新潮文庫)
このようにして僕は村上春樹にハマッていったわけだが、彼の小説の魅力のひとつに「酒」の描写に優れているという特徴がある。彼の小説の中の酒を飲むシーンは酒好きにとってはたまらないもので、思わずグラスを取りに行かせるほどこちらの想像力を喚起させる。それもそのはず、村上春樹自身がかなりの酒好き(特にビール)なので、酒の描写に関してはリアリティというか説得力があるのは当然なのである。ここらへんは酒好きの読者にしかわからないだろうなぁ。