手袋とツルゲーネフ

その日僕は歩いて帰った。それこそ一時間ほど歩いた。
外は凍てつくような寒さだっただろうが、酔いのせいかまるで夢をみてるような穏やかな恍惚感を感じていたので、さほど寒くはなかった。
その日買った五百円の手袋は、あるべき場所にあったように僕の手を包んでくれたし、帰りの電車で読もうと思っていたバッグの中のツルゲーネフの小説も気にはならなかった。
こんな気持ちで帰るのはとても久しぶりで、恋人(あえて恋人と言わせてもらう)のことを夢見がちに想像しながら歩く時間はささやかな幸せのように感じられた。


ぼくたちは何だかすべて忘れてしまうね

ぼくたちは何だかすべて忘れてしまうね